【D.I.Yの基本】スライド丁番
何でも建築相談所、あなたの建築士 “yourCrony”です。
家具を作るための登竜門、スライド丁番!
一家に一台は当たり前、扉を開ければ毎日目にするスライド丁番は、作業性も良く、機能性も良く、存在感は薄いけど非常に優秀な丁番になっています。
台所の吊戸棚を見てみてください、開けたらありますよ、スライド丁番!
えっ、台所に吊戸棚がなかったら・・・洗面所の家具とか見てみてください・・・どこかに必ずあります・・・そんな丁番なんです。
ということで今日はそんなスライド丁番の種類やメンテナンス方法をお伝えします。百聞は一見に如かずで、画像が多めの内容となっています。
スライド丁番とは
まずスライド丁番とは、家具、特にキャビネットで多く使用されている扉を開閉するための丁番です。閉まっている状態では、スライド丁番が見えなくて、家具のシルエットが、とてもシンプルでスッキリとさせることができるので、家具には欠かせない丁番となっています。そして、見た目だけではなくて、一見おもちゃみたいな丁番ですが、回転軸の複雑な構造や、容易に調整・メンテナンスができる仕組みとなっているとても優秀な丁番です。
<部品>
本体です。扉に固定します。パッと見た感じ、同じように見えますが、左から「インセット」「半カブセ」「全カブセ」と開き方が異なります。
座金です。マウンティングプレートとも言います。側板や仕切り板に固定します。本体の「インセット」「半カブセ」「全カブセ」に共通して使用できます。但し、シリーズが違う物は使用できません。
ディスタンスプレートです。マウンティングプレートの下に設置して高さを調整します。マウンティングプレートがディスタンスプレート分移動しますので、かぶせ量が少なくなります。
<引用:スガツネ工業 100-DP2-06>
暗黙のルールとして、扉の板厚と、扉を設置する板(側板又は仕切り板)の厚みは同じ厚みとするのが基本です。慣れてくれば調整可能ですが、不慣れな方はディスタンスプレートを使用することをお勧めします。
<特徴>
スライド丁番の最大の特徴は、扉を閉じている時に丁番がまったく見えないというところにあります。
閉じている状態です。
開いてる状態です。
このように閉じている時にはスライド丁番は見えないので、とてもスッキリしたデザインとなります。
次の特徴としては、操作性です。取付・取り外しはワンタッチとなっていて、容易に扉の取付・取り外しが可能となっています。また、プラスドライバー1本で、位置の調整を簡単にできることも大きな特徴です。
取り付け状況です。
取り外しの状況です。
取り付け時はワンタッチ、取り外し時はロックレバーを押して取り外します。取り外しの際は少しコツが必要ですが、慣れれば簡単に外れます。
取り外し方として、スライド丁番のお尻側にロックレバーがありますので、ロックレバーを押した上で、持ち上げるように動かせば外れる仕組みになっています。スライド丁番は上部にある吊戸棚に使用されることが多いので不用意に落下しないように簡単に外れない仕組みとなっています。最初は戸惑いますがコツを覚えれば簡単に外せるようになります。
※スライド丁番の裏側の黒く見えているところがロックレバーです。ロックレバーが黒くないスライド丁番もありますが、機能は一緒です。
取り外し方のポイントは「ロックレバーを押して持ち上げる」です。
調整の状況です。
プラスドライバーが1本あれば調整可能です。スライド丁番を取り付ける加工の段階で少し間違えたとしてもそれをカバーしてくれます。調整方法は後述していますので引き続き読み進めてください。
特徴のまとめ
ということで、とても優秀なスライド丁番です。特徴編の最後に、スライド丁番はこんな開き方・閉じ方をしていますので、ご確認ください。おもちゃみたいなスライド丁番ですが、開閉機構はとても複雑にできていて、何とも素晴らしい丁番です。
スライド丁番の種類
スライド丁番はいろいろなメーカーで販売されており、同じメーカーでもいろいろなシリーズがありますので、世の中にはとてつもない数のスライド丁番が存在しています。しかしながら、抑えるべきポイントはそれほど多くありませんので、種類を理解して、メーカーは自分の好みの物を選べば良いかと思います。
大きく分けて「薄扉用」と「厚扉用」の2種類があります。
- 「薄扉用」は扉の厚み 20mm 以下
- 「厚扉用」は扉の厚み 30mm 以下
となっていますので、まずこれは覚えておきましょう。
「薄扉用」と「厚扉用」はスライド丁番本体が違っていますので、加工の段階から道具が違うので注意しましょう!
次に扉を閉じた時の扉の位置関係の違いが3種類あります。
全カブセ(側板又は仕切り板の小口を全部隠します。)
半カブセ(側板又は仕切り板の小口を半分隠します。)
インセット(キャビネットの内側に扉を付けたいときに使用します。)
大きな特徴としては、「厚み2種類」と「閉じた時の状態3種類」の合わせて6種類(2種類×3種類)が最低限知っておくべきスライド丁番の基本となります。
百聞は一見に如かずということで、全てイラストでまとめましたのでご覧ください。
次に、全てのスライド丁番に共通している代表的な「機能」を覚えておきましょう。
バネ付きかバネ付きではないか(バネ無し)です。
スライド丁番内部にバネが内蔵されているものと内蔵されてないものがあります。キャッチとも呼ばれています。
この選択肢はあなたがイメージしている開き方及び閉じ方をどうしたいかによって決めます。
バネ付きを選択
バネが付いているスライド丁番は、バネの働きによって扉を閉める時に最初のアクションを与えてあげれば勝手に閉まっていきます。そして、バネにより簡易的に固定されますので、閉じている時は強い衝撃を与えなければ勝手に開いてくることはありません。
バネの力で勢いよく閉まっていきますので、閉まった際「バンッ」と大きな音がすることがあります。涙目シールと呼ばれる緩衝材を設置しておけば、そのような音は鳴りませんので設置するようにした方が良いでしょう。
また、勝手に閉まって欲しいけど、やさしく閉まって欲しいなと思った時に便利なアイテムがあります。
ダンパーです。
スライド丁番に設置できます。但し設置できる種類・シリーズが決まっていますので事前に確認をしましょう。
バネ付きスライド丁番のバネの力をダンパーが和らげてくれて、ゆっくり閉まります。
ひと昔前はこのような後付けのダンパーをつけていました。最近では、スライド丁番自体にダンパー機能が組み込まれている製品が主流となっています。
バネ無しを選択
バネが無いスライド丁番は、開閉の際に人の手によって力を入れなければ開閉できません。ですので、バネ付きスライド丁番のように閉めた際に「バンッ」という音は鳴りません。ただし、バネによる力がありませんので閉じている時に軽い衝撃や中の物が崩れた時に勝手に開いてしまうことがあります。
その時に使用するアイテムは「プッシュラッチ」や「マグネットラッチ」といったものになります。
プッシュラッチです。
先端にマグネットがついています。本体を家具側に、小さな部品を扉に設置します。閉めた際にマグネット同士がくっつくので勝手に開かなくなり、押すと画像のように本体が飛び出るので、その勢いで扉が開きます。
「マグネットラッチ」はこのプッシュ機能がないもので、扉を閉めた際にマグネットがくっついて、勝手に開くことがなくなります。
バネ付きかバネ無しか
主流としてはダンパー付スライド丁番(バネ付き)になるかと思います。ワンアクションでゆっくり、しっかり閉まってくれるのは魅力的です。とはいえ、扉に取手(ツマミ)をつけずに壁のように見せたいとあれば、バネ無しスライド丁番にプッシュラッチをつけて扉を押せば開くようにして取手(ツマミ)を無くすこともできます。それぞれにメリット・デメリットがありますので、それを理解し、生かして計画して貰えればと思います。
これがスライド丁番の大きな特徴になります。閉じている時の状態、閉じ方の種類を理解して頂きましたでしょうか。次に、加工方法を説明していきます。
スライド丁番の加工方法
それでは、スライド丁番を設置するための加工方法を説明していきます。
扉に穴を開ける
まずは、扉にスライド丁番を設置するために「穴」を開けます。スライド丁番専用キリがありまして、スライド丁番の下記の部分を「カップ」と呼び、この部分のための穴を開けるので「カップキリ」とも言います。
丸い部分がカップです。左側が薄扉用、右側が厚扉用のスライド丁番です。
カップ部分は丸ではありませんが、それぞれのカップ径で穴を開けるとピッタリはまるようになっています。
スライド丁番専用キリ(カップキリ)です。先端の丸い部分の径はΦ40mm、Φ35mm、Φ30mm、Φ26mmがあります。一般的な厚扉はΦ40mm、薄扉はΦ35mmとなっていますので、この二つがあればとりあえずは問題ありません。※写真はΦ35mmです。
チャックです。上記スライド丁番専用キリは根元が丸軸のためインパクトに設置できません。インパクトで穴あけをしたい場合はこのチャックを使用しましょう。
インパクトで穴あけする場合はこのような状態になります。但し、極力ドライバー系のものを使用しましょう。インパクトは穴あけにあまり向いていません。※インパクトと充電ドライバーの違いは別ブログにて説明します。
穴を開ける位置は、使用するスライド丁番の説明書又はカタログに記載されています。下記のように図解されているのがほとんどになります。いろいろ書かれていますが、確認するところは「カット量(C)」ぐらいですので、最初は深く考えるのはやめましょう。
<引用:スガツネ工業 カタログ>カット量(C)は最大のかぶせで加工しましょう。
上図で点滅している所です。
その理由は・・・下記調整編をご覧ください。
スライド丁番を固定する
次に、開けた穴にスライド丁番をセットしてビスで固定します。
穴が丸い穴なので、スライド丁番がくるくる回ってしまいますので、ビスで固定する際は扉と平行になるように指矩(さしがね)等を用いて固定してください。
ビスはスライド丁番専用のビスがありますので、そちらを使用しましょう。見た目も綺麗に納まります。
座金を設置する
続いて座金を側板又は仕切り板に取付をします。
座金はキャビネット(家具本体)と平行になるよう設置します。扉が取り付く高さも注意して、ビスで固定します。
(設置高さは後述”スライド丁番を選ぼう”にまとめています。)
最初にキャビネットに設置する位置を書いて、上部の座金を設置しましょう。その後、下の座金を設置していきます。
コツは上部の座金を設置した後に、扉を吊ってしまって、そのまま下部の座金を設置すると簡単に設置できます。慣れていないと墨を出してもずれてしまいます。
扉を吊る
スライド丁番を取付座金にかぶせるように押し当てて、そのままグッと押し込んで「カチッ」と音がしますので、これで取付完了です。
これで設置完了です。「穴」を開けるのが少し大変ですが、難しい作業ではありません。扉の位置の微調整は可能なので、多少の失敗は大丈夫です!とりあえず、やってみましょう!
※扉の取り外し方は上部に記載済みですので、忘れた方はチェックしてください。
スライド丁番の調整方法
扉の位置を調整できることはスライド丁番の大きな特徴のひとつです。スライド丁番の小さな体には、ネジが3つもついています。先ほど取付・取り外し方法を説明しましたが、それらはワンタッチでできる仕組み・構造になっていますのでそのためにネジは必要ありません。では何のネジ?ってなりますよね。実は3つとも調整用のネジになっています。
- 上から順番に
- かぶせ量
- 上下移動
- 前後移動
- の微調整ができるネジになっています。
どのネジがスライド丁番をどのように動かせるかは下記図解にて理解して頂き、どのネジを回すかは実践を繰り返して頂き体で覚えて頂ければと思います。
それでは、3パターンの動きをご確認ください。
かぶせ量の調整
- ネジを右に回転させるとかぶせ量が増えます。
- ネジを左に回転させるとかぶせ量が減ります。
- 動かせる範囲は 0mm ~ -4mm となっています。
上下の調整
- ネジを緩める(左に回転)と上下に移動することができます。
- 移動させた後で、固定したいところでネジを締めて(右に回転)固定します。
- 動かせる範囲は +3mm ~ -3mm となっています。
前後の調整
- ネジを緩める(左に回転)と前後に移動することができます。
- 移動させた後で、固定したいところでネジを締めて(右に回転)固定します。
- 動かせる範囲は +2.5mm ~ -2.5mm となっています。
※各微調整の範囲はシリーズ、メーカーにより異なることがありますので、必ずご使用になるスライド丁番の説明書をご確認ください。
このように微調整が可能なので加工時の2mm程のズレは吸収できます。但し、「かぶせ量」に関してはスタート時点でかぶせ量を増やすことができません。なので、かぶせ量(C)は最大のかぶせ量でのカットをしてください。
スライド丁番を選ぼう
スライド丁番の種類、加工の仕方、調整の仕方は理解して頂けましたでしょうか。実際にどのようなスライド丁番を使用すれば良いのか一覧表にしましたのでご覧ください。
厚み |
| |||
---|---|---|---|---|
閉めた時 |
| |||
バネ(キャッチ) |
| |||
開き角度 |
| |||
丁番の数 | 2個以上(下記参照) | |||
薄扉 | ||||
厚扉 |
まとめ
いかがでしたでしょうか?
ここで解説した内容はスライド丁番の導入編に過ぎません。
例えば開く角度にもいくつか種類があったりと選択肢の幅はさらに広がるのですが、今回の記載内容をマスターして頂ければ基本的には問題ありません。
メーカーは有名なところでは「スガツネ工業」や「アトムリビングテック」になります。メーカーや製品によって機能は様々なので、自分のお気に入りを見つけて頂ければと思います。
どんな家具を作ろうかと頭に描いたときに、自然と浮かぶ扉の開閉を、いかなる形でもスライド丁番は実現してくれます!
最後までお読みいただきありがとうございました。
感想や、ご意見等ありましたら、コメント欄からお願いします。